恨みのコーヒーアイスキャンディ の巻

 

 私が5才くらいの時であろうか?

それは遠くに陽炎なんかも見える暑い夏の日であった。

私はセミを捕獲するため、近所の川原へ行った。

今考えると、川にセミを捕りに行くなど、山に漁師のおじちゃんを探しに行くくらいとんちんかんな話であるが、当時より私はかなりの楽天家というか、物事を深く考えない子だったので、大量捕獲は無理でも、川にだってセミは一匹くらいいるだろうと思い、間違って川へ飛んできたレアなセミを狙っての捕獲作戦をおこなっていたのだ。

しかし、当たり前だが、レアなんだからそう簡単に捕れるはずもなく、結局仕方ないので、ドブ色の何の変テツもない、細っこい蛾みたいなのを2匹、虫カゴに入れて家に帰って来た。

 すると、家の門の前で、6才上の姉が、ブロック塀にもたれて何かを食べていた。

アイスキャンディーだ。

なんとも言えない琥珀色をしたそのアイスキャンディーは、姉が一口かじるたびに溶けて、その甘い汁を道に落としていた。

私は戦闘の後で(無駄な戦いであったが)、ひどく暑く、喉が乾いていたので、即座に姉に言った。

「あっ!おねーちゃん、アイス食べてる!たーちゃん(当時の私のあだ名)にもちょーだい!」

すると姉は少し大人びた目で、真っ黒に日焼けした、どろんこの、しかもわけのわからん虫がはいっている虫カゴをたずさえた、いかにもひもじそうな私に向かってこう言った。

「これはね、コーヒー味なの。コーヒーはね、10才以下の子が食べると死んじゃうんだよ」

「‥‥!!」

姉は11才、私は5才。

強烈であった。

確かに両親にはコーヒーはあまり飲んではいけないと言われていたが…。 食べたら死ぬだなんて…。

しかも10才以下限定など妙に具体的である。

 姉は言い終えると、何事もなかったように私の目の前で、その琥珀色のコーヒーアイスキャンディーをたいらげてしまった。

 今でもこの事件を思い出す度に、なぜだか「弱肉強食」という言葉が頭を過る。

 あの時、姉が一口でも、このかわいそうな私にアイスを与えてくれていたら、私はもう少し素直なかわいい人になっていたかもしれないし、道をまっすぐ歩けたかもしれない。

へんちくりんな服や行動に対して、もう少しまっとうな反応ができたかもしれない…。

周りの人にも、「あきばさんってちょっと変わった人よねぇ」なんて第一声で言われなくてすんだかもしれない!

私の原点はあのコーヒーアイスキャンディーなのだ!

 

 くそぉ、姉よ、そこで自分の娘にコーヒーキャンディーを与えている姉よ、何十年たっても覚えておるぞよ!

コーヒーくらいでこどもは死なんのだ!!

あんときのコーヒーアイスキャンディー食わせろ〜‥‥。

'03 11/17