最悪のアルバイト の巻

 私は、過去、実にさまざまなアルバイトを経験した。

お菓子屋、テレフォンアポインター(大学4年生に電話をかけて、就職情報を一方的にしゃべりまくるやつ。)、街道沿いのコンビニでの酒販売(みんな車で来るので、売れねーし)、おつかいばかり頼まれる貴重品預かり係(おつかいから帰ったら、貴重品が減っていたり…)…等々。考えてみたら変なのばかりだった。

 しかし、その中でも、群を抜いて変ちくりんでたいへんだったのは「工場でのせっけん詰め」であった。

文字通り工場でせっけんを詰めるという、作業はいたって単純なことなのだが、これがつらい…。始業時間9時から12時のお昼休憩までずーーーーぅっとベルトコンベアから流れてくる箱にせっけんを詰めるのだ。

これがひよこや小っこいおサルなんかであれば、夢中になって詰めまくるのだが、相手はただのせっけんである。「ただの」とかいうと、せっけんや、せっけんを作った人に失礼であるが、ただ詰めるだけの者にとっては、ちょっといい香りがするだけで、食えもせず、目の保養にもならず、正直、外見ではまったく勝負のできない、やはりただのせっけんなのだ。

そのただのせっけんを、ただひたすら箱に詰めるだけの仕事である。ロボットさんの苦悩が少しわかるような気がした。

 私の前にはもう一人、人が立っていて、私たちは手分けをしてせっけんを詰めた。前の人が2つ、そして私が残りの2つを詰め、合計4つのせっけんを空箱に詰めるのだ。

ベルトコンベアーの上を、空箱が押しあいへしあい流れてくる時もあれば、ぽつねんと1コだけ流れてくる時もあり、波はあったが、とにかくずっとせっけんを詰めることに変わりはなかった。どこのどいつがこんなにせっけんを欲しがるのだという気にもなったが、仕事であるから仕方あるまい。

 お昼を食べるころには、何も考えていなくても手が右から左へと自然に動くようになり、まるで欽ちゃんであった。

 午後になり、また定位置についてせっけんを詰める時がきた。しかし、なぜか午前中よりも前方の視界が広い。なぜだろう…、お昼を食べてリラックスしたせいだろうか…、いや、違った。私の前で作業をしていた人がいないのだ。

「トイレにでも行っているのかなあ…」

そう思っていると、始業ベルが鳴ってベルトコンベアーが動きだしてしまった。

私は慌てて言った。

「あ、あのう…、前の人がいないんですけど…」

すると、ベルトコンベアーを動かした、社員らしき人が言う。

「ああ、時々いるのよ、午後になると突然いなくなっちゃう人。つらくて帰っちゃうのよ。今の人はまったくねえ…。あきばさん…だっけ?あなた、申し訳ないけど、できるだけやってみてくれる?じゃあ、流しまーす!」

できるだけって…??

しかし、そんなことを考えるヒマもなく空箱はどんどん押し寄せてきた。

「仕方ない、やるしかない」

私は覚悟を決めてせっけん詰めにとりかかった。そうだ、リズムにのって詰めりぁあいいのだ!

「ン  ン  」

こうして私はなぜか4つのせっけんを一人で詰めることになったのだ。

 3時過ぎになるとせっけん詰めも終盤にさしかかったが、そのころにはもうすでに目は血走り、手は「全員集合」のババンババンバンバンバン状態であった。

そしてようやく空箱がなくなり、ベルトコンベアーが止まった。終わりである。やった!地獄からの解放である!

次は椅子に座って、箱の仕切りを折る仕事である。しかも終業まで残る1h。楽勝である。楽勝のはずだった…。

「あきばさーん、ちょっと来てくれる?」

この言葉で私の楽勝は見事に崩れ去った。

私は言われるがまま、仕切り折りに向かう群れから外れて、私に手招きする社員の方へ向かった。

「なんでしょう?」

私が言うとその社員はにこやかに言った。

「あきばさん、すごく仕事が速いから、次、こっちやってほしいのよね」

見ると、なにやらバッティングセンターのようなつくりの機械から、ものすごいスピードで厚紙がふっ飛んできている。そしてそれを、見たことのない素早さでひっつかみ、これまた見たことのない素早さで空箱を折っている人がいる。

…これか…

「私は別に好きで仕事を速くしたわけでは…」

そう言いかけた時、正面からものすごいスピードで厚紙がふっ飛んできた。

「ほれ!はやく折る!!」

社員が叫ぶ。

「あぁぁぁぁぁ」

もう二度とやるまい!もうぜったいやらない!ぜえーったいやらねえ、せっけん詰め!

私は本心から神様に誓ったのだった。

 それにしてもなんであんなスピードで箱が飛んでくる必要があるのだろう…。いまだに謎である。

’02 10/21