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魚屋の怪の巻 渋谷のデパ地下でバイトしていた時のことである。 ある日私は社員さんに言われて倉庫に商品を取りに行くことになった。私のお店から倉庫までは、魚屋を通っていかなければならないのだが、その魚屋の前で、私は不思議な音を聞いた。 ガサッ ガサゴソ ガサガサガサゴゲ… 私はなぜだかガサゴソ音と携帯の鳴る音と、お金の落ちる音には異常に反応する。 私は仕事を忘れてその音の源を探した。まわりには開店したばかりというけともあって、まだ人影もまばら。パックに入った赤や青や黄色のお魚の遺体がところせましと並んでいるばかり。 なあんだ空耳かと思って倉庫に向かおうとすると、 ガサゴサガサ… 今度こそと思って猫のように敏速に振り返って、その正体を探すと… 「サワガニ1パック298円」 どうやら、そうかかれた透明パックからその音は出ているらしかった。 中には、毛が生えてたらケガニかと思うくらいでかい奴(←大げさ)や豆粒くらいのチビまで約20匹、まだ生きていて、そいつらが折り重なるように入っていて、時折ガサゴソ動くのだった。よく見てみると、何やら九州産と書かれており、これまた遠くからカラアゲになるために来たのかと思うと、ひじょーにせつなくなる光景であった。 デパートはどうしてこのような形でサワガニを売るのか(怒)! 毛ガニなどは立派な葉っぱのおふとんの上に、皆が驚く金額で堂々と寝ているのに、このサワガニたちは魚屋のすみっこで、その数に対して明らかに小さすぎるパックにつめられ、やる気のなさげな298円と書かれた値札でまとめて売られている。 ちっこいからいけないのか?毛がないからいけないのか?とにかく私には見るにたえない光景だった。 カニたちは時間を追うごとに弱っていった。閉店近くにはパックの中の3分の1があおむけにひっくりかえっていた。私はたくさんあるパックの中でも、まだ望みがありそうなのを1パック選んでレジに並んだ。 もちろん、「食う」ためではなく、「飼う」ためにである。 レジに並ぶ前、魚屋のおじちゃんが半額シールを貼ってくれた。ちょっと複雑な気持ちになった。そんなわけで私はその日以来、およそ20匹のカニを飼うことになったのである。続く…。
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