<<(日記より)アルバイト七転八倒 編>>

 (1)

 今日、バイト先で、「衛生講習会」なるものに参加した。

保健所の担当員が来て、食品を扱う仕事に従事する私たちに、衛生の知識について語るのだ。

私は前から3列目の席に着席した。

どんな人が担当員なのかと、ドキドキして待っていると、やって来たのは、鼻の下と顎にひげェ!といわんばかりの存在感のあるひげを生やした、なんだか、トイレに入っても手を洗わないで出てきそうなタイプのおっさんだった。

「私が野中(仮名)です。私と直接話をしたい人はどうぞいつでもお電話を下さい。」

と、彼は初め、そればかり繰り返した。この人に直接電話をして何を話せというのか?おひげの話でもすればよいのか?

講習会の内容は、昨年度の食中毒発生率からはじまって、O-157の話まで及んだ。

「O-157の原因はカイワレ大根だ!」

と、間違って発言したどこかのえらいさんが、謝罪会見のとき、涙ながらにカイワレ大根をムシャムシャ食ったというなつかしい話も出た。

「では、本当のO-157の原因は何なのか?」

話題がそこにたどりついた時だった。

野中さんのゲジゲジまゆげが急に揺れ始め、彼は声を大にしてこう叫んだ。

「O-157の本当の原因は牛のフン。カイワレや、生野菜は二次感染なのです。」

そして、机をどんどん叩きながら彼は続けた。

「そうです、牛のフン、牛のフン、主役は牛のフン!」

一同あぜん・・。

この人は、過去に何か、牛のフンに何かよからぬことをされたのだろうか・・。

それとも、昔、彼女との別れのせつないシーンに牛のフンが登場したとでもいうのか。ひげはそれ以来のばしてるとか・・。

「手洗いと牛のフンには気をつけて下さい。」

最後まで野中さんは、牛のフンにこだわっていた。

デパートの食品フロアに勤務している私たちが、どのように牛のフンに注意すればよいというのか・・。

講習の後、デパートの担当者が付け加えた。

「えーと、この講習は、公的に認められているものなので、衛生管理証をお持ちのかたは、講習を受けたということで、都承認のハンコを押しますので、こちらに来て下さい。」

こんな講習で、都は衛生を承認するのか?(笑)

そして私たちは、それが、野中さんのひげに対するものなのか、牛のフンへの情熱に対するものなのか、何だかわからないまま、拍手をもって彼を送ったのだった。

'01 5/29

 (2)

 今日のお昼はたこやきを食べたかった。

バイト先のデパートの同じフロア内にある、たこがもどかしそうによじれている看板が目印のたこやき屋はその場で焼いて、あっつあっつを出してくれるので、以前から目をつけていたのだ。

今日のお昼をたこやきに決めたのは、私が今日、たこ!な気分だったというのもあるが、その店はいつもいるのに、今日は並んでいなくて楽に買えそうだと思ったのが大きな理由である。貴重なお昼時間を無駄にしたくはない。

私はお昼の時間が来ると、迷わずにそのたこやき屋に直行した。看板のよじれたたこの足が「おいで〜」と誘っているようにも見えた。

「いかかでしょうかぁ」

店員は声高らかにたこを宣伝していた。

たこやき屋の鉄板の中では、ちょっとたこの吸盤が見えた、白くてあつあつの幸せの球体がふつふつと音をたてて焼かれていた。

「これにマヨネーズつけるとうまいんだよね。」

そう思いながら、私は誰も待っていないカウンターのところに行って

「たこやき1ハコ下さい。」

とボソッと言った。すると、その店員、

「20分待ちになります。」

と言うではないか!

20分も待つのに、「いかがでしょうかぁ」などと言うな!

目の前に幸せの球体が惑星の数ほど、中にたこを抱えて待っているのに、20分も待たねばならぬとは何ごとか!

「えっ! そんなに待つんですか?」

小声で私が聞き返すと、その店員、また笑顔でこう言った。

「はい、昨日からブザー方式になりまして、お客さまの御注文が御用意できましたら、これを鳴らしますので、そうしたらここにいらして下さい。」

そうしてその店員から私は、ウルトラマンのカラータイマーみたいなのを受け取った。

なるほど、待っている間にも他の買い物をしてもらおうということなのだろう、良く見るとあちこちに、このたこブザーをもっている人がいる。だからだれも並んでいなかったのだ。

んー、しかし、20分かあ、私は悩んだ。

私の昼休みは1時間。20分待ってたこやきを買って、10分で食べたとしても、あと30分。トイレの時間10分をのぞいたら、20分しか昼寝の時間がないぢゃないかあ(怒)!

その間にも、ブザーの鳴った、ハゲですきっ歯のおやじが、20分の重さにただ立ちつくしている私の前を通り過ぎ、勝ち誇ったようにその幸せの球体を買っていった。

 平日の昼間にたこやきを待ってでも買える、ハゲですきっ歯のおやじより、1時間しか昼休みがない私の方がよっぽど忙しいのだよ!と思ったが、同じデパート内、いくらハゲですきっ歯とはいえ、お客さまを優先させねばならぬ。

私は歯をくいしばりがまんした。おかげで、たこを食わなくても私の顔はたこのように赤くなった。

結局、私はたこをあきらめて、社食の冷やしたぬきそばにした。

何故か私の中では、サザンではなく、研ナオコの「夏をあきらめて」がなり響いて止まなかった。

あきらめのタコ・・。

'01 6/5

 (3)

 うちの仕事先の店長は21歳の若々しい女性である。

入社して3年で店長を任された。すごいもんである。

しかし、やはり21歳は21歳。仕事以外でもきっちり遊ぶ。

最近彼女の中で流行っているのがクラブに行くことである。(ここでいうクラブとは、おねーちゃんのおすわりしてるとこでもなく、水泳クラブでもない。音楽が鳴っているとこである。)

だから、夜中〜朝方までにかけてクラブへ行って遊んできた翌日なんかはとても眠そうである。

となりで私もインコと遊びつかれてねむそうである。

店員2人が眠そうで、売ってるものがせんべいで、おまけに来る客のほとんどが寝てんだか起きてんだかわからんじーさんばーさんばかりであるから、マネージャーに「もっと元気よく」と言われても仕方ない。

 そんな店長に、今年も健康診断の季節がやってきた。

 社員以外は健康チェック表を提出するだけでいいが、社員である店長はわざわざ東京支店まで出向いてゆかねばならぬ。

しかも、健康診断のために休みをくれるほど人が余っているわけではないので、午前中に検査をして午後には店に出るという、過酷なスケジュールが毎年恒例なのだそうだ。

よって彼女は今年も健康診断のために早起きをしなければいけないのだ。

そして、その健康診断の日にちと詳細が、今日、会社の回覧でまわってきた。

「げっ!8:45分集合!」

彼女は叫んだ。

無理もない。8:45分に駒沢大学にある支店に行くには、東京の西にある彼女のうちからだと朝6時に起きなければ間に合わないのだそうだ。

6時といえば、彼女がクラブから帰ってくる時間である。

彼女は言った。

「こんなに早起きしたら具合悪くなっちゃうじゃない!」

・・・ハハハ(^д^;

普段寝るくらいの時間に起きて、しかも健康診断なんかに行ったらたしかに何かひっかかるかもしれない。彼女の言い分もそれなりに納得できるものである。

'01 6/19